「ザ・ヴァイオリニスト」をわかりやすく解説!

 本ページにはプロモーションが含まれています

「ザ・ヴァイオリニスト」とは、アメリカの哲学者ジュディス・ジャーヴィス・トムソン(1929 - 2020)が提唱した、他者の生命と自身の身体に関する思考実験です。

この記事では、「ザ・ヴァイオリニスト」について、具体例を用いて分かりやすく解説します。また、「ザ・ヴァイオリニスト」の思考実験から私たちが学べることを紹介します。

「ザ・ヴァイオリニスト」とは?

ある朝目を覚ますと、あなたは病院のベッドに横たわっていて、隣のベッドには有名なヴァイオリニストが眠っていました。そして、そのヴァイオリニストとあなたは、輸血用の管で繋がれていました。

実は、そのヴァイオリニストはある病気にかかっており、ある条件を満たす特別な血液を9ヶ月間輸血し続けなければ死んでしまうという状態でした。

偶然にもあなたの血液は、世界で唯一その特別な条件を満たす血液型でした。そのため、あなたの存在を知ったヴァイオリニスト側の人間はあなたを誘拐し、強制的に輸血を行っていたのでした。そして、もしあなたが輸血を止めた場合、ヴァイオリニストはその場で死んでしまいます。

さて、ここで疑問が生じます。あなたには、輸血を続ける義務があるでしょうか。

そもそも無理やり輸血をさせられたので、拒否してしまえば良いでしょうか。それとも、自分の意思ではないとしても、一度輸血を始めてしまったからには、他者の生命に対する責任が生まれ、最後まで命を守らなければならないのでしょうか。

「ザ・ヴァイオリニスト」の具体例

実はこの思考実験は、妊娠中絶の是非について議論するために提唱されたものです。

「ザ・ヴァイオリニスト」の提唱者トムソンは、望まない妊娠をしてしまった女性に、お腹の赤ちゃんを産み育てる義務があるかどうかを問いました。

さきほどの話の中で、「あなた」は望まない妊娠をしてしまった妊婦、「ヴァイオリニスト」はお腹の中の赤ちゃんに例えられます。

この時妊婦には、妊娠中絶する権利があると言えるでしょうか。それとも、一度妊娠してしまったからには、赤ちゃんの生命に対する責任が生まれ、出産をしなければならない義務があるのでしょうか。

この問いに対し、トムソンは「自分の体を他人と共有することに同意しなければならない義務はない」と主張しました。つまり、妊娠が意図しないものである場合は、女性には妊娠中絶を行う権利があるということになります。

もちろん、この問いに対する絶対的な正解は無く、答えは人それぞれということになります。

「ザ・ヴァイオリニスト」から学べること

現代に生きる私たちは、「ザ・ヴァイオリニスト」からどんなことを学べるでしょうか。

それは、法的義務と道徳的な義務(=感情的な義務)は別物だということです。

結論は人それぞれかもしれませんが、直感的には、見ず知らずのヴァイオリニストのために自分の体が9ヶ月も不自由になるのは嫌だと思う一方で、お腹の赤ちゃんには責任を持つべきだと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この場合、ヴァイオリニストの例を法的義務の視点から、赤ちゃんの例を道徳的義務の視点から考えていると言えます。

つまり、ヴァイオリニストを助ける(法的)義務は無いが、赤ちゃんを出産する(道徳的な)義務はあるのだということです。

「ザ・ヴァイオリニスト」の思考実験は、全ての道徳的な感情が法律によって実現できるわけではないということを教えてくれます。言い換えれば、法律は道徳をそのまま実現するものではないと言えるでしょう。

「ザ・ヴァイオリニスト」のおすすめ書籍

 

まとめ

この記事では、哲学の思考実験である「ザ・ヴァイオリニスト」について解説しました。

「ザ・ヴァイオリニスト」は、妊娠中絶の善悪を考えるために考案された思考実験ですが、より一般的に、道徳的義務と法的義務について考えるヒントを与えてくれます。

この記事が、哲学の面白さに少しでも興味を持ってもらえるきっかけになれば幸いです。