アンリ・ベルクソン(1859 - 1941)は、フランスの哲学者です。
この記事では、「持続」「生命の躍動(エラン・ヴィタール)」といったベルクソンの思想を分かりやすく解説します。
また、ベルクソンの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- ベルクソンの思想
- ベルクソンの思想を現代社会で生かす方法
- ベルクソンのおすすめ入門書
ベルクソンの生涯と時代背景
ベルクソンが生きた20世紀初頭のヨーロッパでは、科学技術の急速な発展により、人々の生活がどんどん効率化されていました。
その背景には、時間と空間を数値化して、計算によって生産活動を行うという考え方がありました。
ベルクソンは数学や物理学を学びながらも、人間にとっての時間を主観的な側面から問い直した哲学者として知られています。
ベルクソンの主な思想
ベルクソンの主な思想を解説します。
持続
「持続」とは、意識の中に現れる感情や記憶がお互いに溶け合って流れていくような、主観的な時間のことです。
一般的な理解では、時間は過去→現在→未来という一方向に、一定のスピードで進んでいく、客観的なものであると考えられています。つまり、過去の後に現在があり、その後に未来があるという順番です。
しかし、ベルクソンはなんと、この考え方を否定します。ベルクソンによれば、人間にとっての時間とは、本来は計測できない主観的なものであるといいます。
例えば、私たちがお気に入りの音楽を聞く時、過去の思い出をイメージしていることがあります。また、恋愛ドラマを見ながら、自分の未来にもそのようなことが起きるかもしれないという妄想をすることもあります。
この時私たちは、「現在」という切り取られた時間を生きているのではなく、過去や未来が溶け合い、流れ込んでくるような、「私だけの時間」つまり、主観的な時間を生きているのだとベルクソンは主張しました。
生命の躍動(エラン・ヴィタール)
「生命の躍動」とは、生命の創造的な進化を推進する力のことを言います。
当時のヨーロッパでは、科学技術の発展により、人類の進化にも化学や物理学の理論が適用されるようになりました。
しかしベルクソンは、人類の進化を単なる物質的なプロセスではなく、独自の力によって動かされる創造的なプロセスであると主張しました。そして、その原動力になるのが「生命の躍動」です。
ベルクソンは一貫して、科学的な理論を人間に適用することを否定し、人間の無限の可能性を主張した哲学者であるといえます。
他の思想との関係
ベルクソンは、近代社会の前提である、「全ての物事を客観的に考える」という発想に疑問を唱えました。
確かに機械や物質は物理法則に従って動きますが、私たち人間はそれぞれ自分だけの主観的な時間を生きているため、人生には客観的な理論が通用しないのだとベルクソンは主張します。
ベルクソンのこの考え方は、20世紀のポストモダン思想に影響を与えています。
ポストモダン思想の代表的な哲学者ジャック・デリダは、二項対立を疑うことによって、新たな価値を生み出そうと試みました。
実践!ベルクソンの思想を現代社会で生かす方法
ベルクソンの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
自分の非合理な考えを受け入れる
私たちは、他人から見れば非合理的なことでもやりたくなってしまうことがあります。例えば、お肌に悪いと分かっていながら夜ふかしをしたり、合格見込みの低い受験をしたり...。
これらのことを「合理的でない」と感じるのは、私たちが客観的な目線だけで物事を考えているからです。
しかし、自分の人生は自分のものなので、時には主観的に、やりたいことをやる方が幸せになれるかもしれませんね。
ベルクソンのおすすめ入門書
ベルクソンの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)ベルクソンの面白エピソード
「笑い」の研究
ベルクソンは、「人間はなぜ笑うのか」という考察をしたことでも有名です。
ベルクソンによれば、人間が人間らしくない振る舞いをした時や、逆に人間以外のものが人間らしい振る舞いをした時に、人は笑うのだといいます。
前者の例は、「変顔」です。その人の普段の顔とギャップがあればあるほど、(つまり人間っぽくないほど、)笑ってしまいますよね。
後者の例は、「動物のおもしろ映像」です。猫がまるで人間のように驚いた表情をしていると、笑ってしまいますよね。
ベルクソンは、笑いは、人間の社会的な規範を維持し、逸脱した行動を是正するためのメカニズムとして機能するのだと主張しました。
まとめ
この記事では、「持続」「生命の躍動」といったベルクソンの思想を解説しました。
ベルクソンの哲学は、科学技術が発展した現代において、主観的に生きる大切さを教えてくれます。