「スワンプマン」は1987年にアメリカの哲学者ドナルド・デイヴィッドソンによって考案された思考実験です。
この記事では、「スワンプマン」についてわかりやすく解説します。
また、現代社会における「スワンプマン」とAIの関係について考えていきたいと思います。
- 「スワンプマン」がどのような思考実験か
- 「スワンプマン」とAIの関係
- 「スワンプマン」のおすすめ入門書
「スワンプマン」とは?
ある男が沼地を歩いている最中に雷に打たれ、死んでしまいます。
その時、偶然にも全く同じ場所で、雷のエネルギーが沼の物質と化学反応し、男と全く同じ分子構造を持つ新たな存在「スワンプマン」が誕生します。
スワンプマンにはなぜか男の記憶が残っており、その性格や行動パターンも男と全く同じでした。
また、スワンプマンは自分がスワンプマンであるという自覚はなく、自分は雷から運よく生き延びた男であると認識しています。
さて、ここで問題です。
スワンプマンは元の男と同一人物であると言えるでしょうか。
ちなみに「スワンプ(swamp)」は「沼地」という意味です。
「スワンプマン」を理解するためのポイント
個人のアイデンティティ
「スワンプマン」の思考実験は、個人のアイデンティティの正体が何なのかというテーマを考えています。
つまり、「私」が「私」であるとはどういうことかという問いです。
もし「私」の定義を物質的なもの(=肉体)に求めてしまうと、スワンプマンは男と同一人物ということになってしまいます。
なぜなら、スワンプマンの肉体は元の男と全く同一だからです。
記憶と経験
スワンプマンは男の記憶を持っていますが、その記憶はスワンプマンが実際に経験したものではなく、物質的に脳にインプットされたデータにすぎません。
記憶が実際の経験から切り離された場合、それはアイデンティティの形成にどのように影響するのでしょうか?
実存主義的な観点
実存主義とは、「正義」や「世界」といった普遍的なものよりも、「個人」として人生をどのように生きるのかを考える哲学です。
あえてスワンプマンの目線で考えると、自分のアイデンティティをどのように定義し、これからの人生をどのように選択していくのかという実存主義の問いにつながります。
「スワンプマン」とAI
「スワンプマン」の思考実験から、人工知能(AI)が人間と同じような記憶や行動パターンを持った場合の哲学的な問いを連想することができます。
例えば、人が死ぬ時に自分の記憶をストレージに保存できるようになったとします。
そして、AIがその記憶をもとに「この人が生きていたらこういう発言をするだろうな」ということを予測してSNSの発信をします。
この発信を見た人にとって、AIは「私」のように見えるでしょう。
したがって、AIはある意味でスワンプマンのような存在であると言えます。
果たしてそのAIは「私」なのでしょうか。
何となく「私ではない」と言えそうですが、一方で「ただの機械である」とも言い切れない気もします。
例えば、もし自分の大切な人が亡くなったら、大切な人にそばにいて欲しいという気持ちから、そのようなサービスを使いたいと思う人もいるのではないでしょうか。
AIの技術が急速に発達した半面で、人間は「私とは何か」という問いをしっかり考える必要性に迫られているように思えます。
「スワンプマン」のおすすめ入門書
(おまけ)「スワンプマン」と似ている漫画
「スワンプマン」とシチュエーションが似ている漫画に『亜人』があります。
この漫画では、死んでも肉体や精神が元通りに復活する「亜人」という存在が描かれています。
主人公は自分が普通の人間だと思って暮らしていた高校生ですが、ある日トラックに跳ねられて死亡した時に、体が元通りに復活したことで自分が亜人であると認識します。
亜人の気持ちや亜人でない者の気持ちが複雑に交錯する、とても読みごたえのあるストーリーです。
まとめ
この記事では、「スワンプマン」の思考実験についてわかりやすく解説しました。
また、現代社会におけるスワンプマンとAIとの関係について考えました。
「スワンプマン」は「私」は何によって「私」であると言えるのかという問いを提起しています。
AIによって多くのことが実現できるようになった今日だからこそ、考えてみる価値のある思考実験だと思います。