ウィリアム・オッカム(1285 - 1347)は、中世ヨーロッパの神学者・哲学者です。
この記事では、唯名論を中心とするオッカムの思想を分かりやすく解説します。
また、オッカムの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- オッカムの思想
- オッカムの思想を現代社会で生かす方法
- オッカムのおすすめ入門書
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オッカムの生涯と時代背景
オッカムは1285年にイングランドのオッカムという場所で生まれました(彼の名前は「ウィリアム」ですが、出身地から「ウィリアム・オッカム」と呼ばれています。)
当時のキリスト教世界では「普遍論争」という争いが起きており、オッカムは「唯名論」の立場を主張しました。
ただ、オッカムの理論は当時としてはあまりにも急進的であったため、教会の理解を得ることができず、結果としてオッカムは教会から破門されてしまいました。
しかし、オッカムの唯名論はその後の科学の発展に大きな影響を与えることとなりました。
オッカムの主な思想
オッカムの主な思想を解説します。
普遍論争
オッカムが生きた時代のヨーロッパでは「普遍論争」という問題が議論されていました。
「普遍論争」とは、個々の存在の間で共通するような「普遍的なもの」は存在するかどうかという論争です。
例えば、A君とB君という2人の間には、「人間」であるという共通項があります。
この時、「人間」という人物はどこかに存在するでしょうか?
現代日本で生きている私たちから見れば、そんな存在はどこにもいないと思いますよね。
しかし、当時のキリスト教世界では「人間」という存在がとても重要でした。
なぜなら、キリスト教の教えでは、その昔アダムとイヴという「人間」が罪を犯したために、今を生きる全ての「人間」が原罪を負っていると説明しているからです。
ここで「人間」という存在がなければ、「罪を負っているのはアダムさんとイヴさん(という個人)であるため、私(という個人)には関係ないじゃん!(だから教会の言うことは聞きません!)」という理屈が通ってしまいます。
このようにして、当時の教会では、「人間」「犬」「美」「善」といった、普遍的な存在があると考える「実在論」と普遍的な存在はないと考える「唯名論」の間で激しい論争が起きていました。
唯名論
「唯名論」とは、「人間」や「美」といった普遍的なものはただの名前にすぎず、現実には個々の具体的なものしか存在しないという考え方です。
オッカムは普遍論争の中で、この唯名論を主張しました。
唯名論はその後の哲学のみならず、自然科学の発展にも大きな影響を与えました。
一般的に自然科学では、実験や観察の結果によって何らかの法則を発見することを目指します。
オッカムの唯名論によって、普遍的な存在ではなく個々の事象に注目するという考え方が生まれ、その後の自然科学の発展の基礎ができました。
オッカムの剃刀(かみそり)
「オッカムの剃刀」とは、何かを説明する時に、物事を必要以上に複雑にしないという考え方です。
オッカムは、同じ現象を説明できる理論が複数ある場合、より単純な理論を選ぶべきと考えました。
この方法で何かを主張すると、無駄が無くて切れ味が鋭い説明になることから、剃刀と言われています。
例えば、朝起きて車が動かない事に気づいた場合、以下の2つの説が考えられます。
- 説①:車のバッテリーが壊れてしまった。
- 説②:宇宙人がUFOで地球に襲来し、夜中に車のエンジンを取り去った。
この2つの理論は、確率はさておき、どちらも起こりうることです。
そこで、それぞれの説の中で「仮定されていること」に注目します。
説①では、「バッテリーが壊れていること」という1つの仮定に基づいています。
一方、説②では「宇宙人が存在すること」「UFOが存在すること」「宇宙人が地球に来れる技術を持っていること」...など、多くの仮定に基づいています。
そのため、「オッカムの剃刀」の考え方を適用すると、仮定の少ない説①の方が良い説明だということになります。
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他の思想との関係
オッカムは普遍論争の中で、トマス・アクィナスの実在論に反対しています。
アクィナスは、神が創造した世界において、物事は普遍的な真理に基づいて存在していると考えました。
オッカムの思想は、その後の近代思想に大きな影響を与えました。
中でも最も影響を受けているのは、イギリスを中心に発展した経験主義です。
経験主義は「知識は経験によって得られる」という考え方で、理性的な思考よりも実験や観察によって世界を理解しようと試みました。tetsugaku-chan.com
実践!オッカムの思想を現代社会で生かす方法
オッカムの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
シンプルに考える
現代社会はとても複雑で、何をしようにも色々な要素が絡んでくるため、意思決定ができなくなってしまうことがあります。
そんな時には、オッカムの思想を思い出し、不確実な仮定をなるべく排除してみることをおすすめします。
確度の高い情報や事実をベースにすることで、納得のいく意思決定ができることでしょう。
言わばミニマリストの思考版とも言えるかもしれません。
オッカムのおすすめ入門書
オッカムの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
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(おまけ)オッカムの面白エピソード
AI学習にも応用される
「オッカムの剃刀」はAIの機械学習でも重要視されています。
例えば人物の顔を識別するAIであれば、「男か女か」「黒髪か金髪か」「眼は大きいか小さいか」などのパラメータ(=判断材料)を設定します。
この時、同じパフォーマンスを出せるならば、パラメータがより少ないプログラムの方が優秀であるとされます。
中世の神学者が考えたことが、最先端のテクノロジーを支えているのですね。
まとめ
この記事では、「唯名論」「オッカムの剃刀」といったウィリアム・オッカムの思想を解説しました。