カントの思想をわかりやすく解説!物自体、自律、「美」の正体とは?

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イマニュエル・カント(1724 - 1804)は、18世紀ドイツの哲学者です。

この記事では、「物自体」「感性・悟性・理性」「定言命法と仮言命法」「自律と他律」「美的判断力」「目的論的判断力」といったカントの思想を分かりやすく解説します。

また、カントの思想を現代に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。

  • カントの主な思想
  • カントの思想を現代社会で生かす方法
  • カントのおすすめ入門書

カントの生涯と時代背景

カントは、思想史の中でも超重要人物のひとりです。彼は一生のほとんどをドイツのケーニヒスベルクで過ごしました。

カントが生きた時代は自然科学や哲学が急速に発展し、合理的な思考や人間の理性を重視する「啓蒙主義」と呼ばれる世の中でした。

カントの主な思想

カントの肖像画

カントの主な思想を紹介します。

カントは『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』という3つの主要な著作を通じて、「人間とは何か」という問いに向き合いました。

ちなみに「批判」とは、否定的に語るという意味ではなく、「あらゆる前提を排除して徹底的に考える」という意味です。

それぞれの著作では、

  • 純粋理性批判 ⇒ 人間は何を知ることができるか
  • 実践理性批判 ⇒ 人間は何をすべきか
  • 判断力批判  ⇒ 人間は何を望んでいるか

がテーマとなっています。

純粋理性批判

『純粋理性批判』では、カントは「物自体」「感性・悟性・理性」という概念を使って、私たち人間が物事を認識するプロセスを考察しました。

物自体

「物自体」とは、私たちの外にある世界のことを言います。

それまでの哲学では、人間は世界をありのまま認識しているという前提に立っていました。

例えば、テーブルの上にバナナが置いてあることを観察できれば、「そこにバナナがある」ということが客観的な事実になります。

しかしカントは、人間は世界(=物自体)を直接認識することはできないと主張しました。

「物自体」のイメージ

「物自体」のイメージ

感性・悟性・理性

カントは、人間が世界を認識する時には、常に「感性・悟性・理性」という3つのフィルターがかかっていると主張しました。

  • 感性 ⇒ 物事を直感的にとらえる力
  • 悟性 ⇒ 情報を整理して判断する力
  • 理性 ⇒ 思考する力

例えば、私がバナナを見る時、以下の段階を経ているとカントは言います。

STEP
感性によって対象の特徴を直感的にとらえる
「黄色い」「細長い」「束になっている」というように、対象を直感的にとらえます。

感性のイメージ

STEP1 感性で対象を直感的にとらえる
STEP
悟性によって情報を整理し、判断する
直感的にとらえた情報を整理し、「黄色くて細長くて束になっているもの…これはバナナだ!」と判断します。

悟性のイメージ

STEP2 悟性で情報を整理する

 

STEP
理性によって思考する
「誰かがバナナを置いたのかな。食べていいのかな。」というように、思考を深めます。

理性のイメージ

STEP3 理性で思考する

ここで重要なことは、私は物自体の世界にある「バナナそのもの」を認識しているわけではなく、感性・悟性・理性というフィルターを通して映し出された「バナナのイメージ」を認識しているにすぎないということです。

カントはこのことを、「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従うのだ」と表現しました。

実践理性批判

『実践理性批判』では、カントは「定言命法と仮言命法」「自律と他律」という概念を使って、私たち人間が何をすべきか、つまり、「道徳とは何か」を考察しました。

定言命法と仮言命法

「定言命法」とは、「○○すべき」という無条件な動機を言います。

一方、「仮言命法」とは、何らかの条件が付いている動機を言います。

例えば、道でおばあさんの荷物を持ってあげる時に、純粋に「助けなければ」と考えていた場合は定言命法に基づく行動です。

一方で、もしもお礼の言葉やお金といった「見返り」を期待していた場合は、「助ける」という行為の背後に「見返りがあるなら」という条件(=欲望)があるため、仮言命法に基づく行動になります。

定言命法と仮言命法のイメージ

定言命法と仮言命法

自律と他律

「自律」とは、定言命法に従って行動することを言い、「他律」とは仮言命法に従って行動することを言います。

カントによれば、人間が自由になるためには、定言命法に従って自律的に生きることが重要です。

なぜなら、人は他律的に行動する時、何かしらの欲望に支配されているからです。

例えば、私が見返りを求めておじいさんの荷物を持ってあげる時、私の中には「称賛されたい」とか「お金が欲しい」という欲望があり、私はその欲望に支配されて行動していることになります。

一方、純粋に「助けなければ」と思って行動する時、私は欲望から自由になっているといえます。

自律と他律のイメージ

自律と他律

人格

「人格」とは、自律的に行動する人間のことです。

カントは自分や他者の人格を手段として用いてはならず、常に目的として扱うべきであると主張しました。

例えば、企業が不正確な情報や誤解を招く広告を使って製品を販売する場合、企業は消費者を利用して利益を得ることを目指しています。

この時、企業は消費者を儲けるための「手段」として扱っています。

一方で、企業が誠実な情報を発信し良質な製品を販売する場合、企業は消費者を豊かにすることを目指しています。

この時、企業は消費者(の幸せ)を「目的」として捉えていると言えます。

判断力批判

『判断力批判』では、カントは「美的判断力」と「目的論的判断力」という概念を使って、人間の理性が「美しさ」を認識するメカニズムを考察します。

美的判断力

「美的判断力」とは、何かを「美しい」と感じる能力を言います。

美の主観性

カントは「美」とは主観的なものであると主張します。

例えば、夕日を見て「美しい」と感じる時、夕日そのものが客観的に美しいのではなく、夕日を見ている人の主観が「美しい」と判断しています。

つまり、「美」の正体は客体(=夕日)の側ではなく、主体(=夕日を見ている人)の側にあるということです。

「美の主観性」のイメージ

美の主観性
美の普遍性

一方で、「美」には普遍的な側面もあります。

例えば、夕日を見て「美しい」と感じた時、別の場所にいた人も同じようにその夕日を「美しい」と感じている場合があります。

カントによれば、個々の主観が感じている「美」は普遍的なものとして他者と共有することができます。

「美の普遍性」のイメージ

美の普遍性
利害関係が無いこと

カントによれば、人間が純粋に「美」を感じるためには、対象に対する利害関係が無いことが必要です。

例えば、夕日の写真を撮って販売しようとする人は、対象(=夕日)に対する利害関係をもっているため、純粋な「美」を感じることはできません。

目的論的判断力

「目的論的判断力」とは、人間が自然を見る時に、自然が何かの目的を持っているかのように解釈する能力を言います。

例えば、山と川と海は「水を循環させる」という目的を果たすために、お互いに連携しているように見えます。

カントによれば、私たち人間が自然のメカニズムを理解しようとする時に、実際に自然が目的を持っていなかったとしても、「何か目的があるはずだ」という前提をもとに考えているのです。

目的論的判断力のイメージ

目的論的判断力

他の思想との関係

カント以前の哲学では、「経験主義」と「合理主義」という2つの考え方が主流でした。

「経験主義」は観察によって得られた情報を真実と考え、「合理主義」は思考によって真実を解き明かそうと考える思想です。

カントは感性・悟性・理性を使って世界を観察するという新しい視点に立ち、経験主義と合理主義を統合した哲学者として、その後の哲学界に多大な影響を与えました。

カントの思想を現代社会で生かす方法

美しいものを他者と共有する

私たちは主観と客観の世界で生きており、恋人でも友達でも、誰かと主観を共有するのはとても難しいことです。

しかし「美しい」という感覚は比較的共有しやすい感覚なのではないでしょうか。

カントによれば、私たちは対象と利害関係が無い時に、普遍的で他者と共有可能な「美」を感じることができます。

誰かと気持ちが通じ合う経験は、人生の幸福度を上げてくれそうですよね。

カントのおすすめ入門書

カントの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。

 

 

【おまけ】カントの面白エピソード

カントは非常に几帳面な人物で、毎日の生活を厳格なスケジュールに従って過ごしていました。

カントは毎朝4時に起き、夜10時に寝るという生活リズムを守っていました。

そのリズムあまりに正確だったので、近所の住民はカントの散歩を見て時計を合わせていたと言われています。

まさに自分を律していますね。

まとめ

この記事では、カントの三大批判書と言われている『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』をもとに、「物自体」「感性・悟性・理性」「定言命法と仮言命法」「自律と他律」「美的判断力」「目的論的判断力」といった思想をわかりやすく解説しました。

カントは「人間とは何か」という問いに向き合い、道徳や美の考察を通じて人間の理性のはたらきを追求しました。