デイヴィッド・ヒューム(1711-1776)は、18世紀のスコットランド出身の哲学者であり、イギリス経験論の中心的人物の一人です。
このページでは、「知覚の束」をはじめとするヒュームの思想をわかりやすく解説します。
また、ヒュームの思想を、現代に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。
- ヒュームの主な思想
- ヒュームの思想を現代社会で生かす方法
- ヒュームのおすすめ入門書
ヒュームの生涯と時代背景
ヒュームが生きた18世紀は、啓蒙時代と呼ばれています。
啓蒙時代のヨーロッパでは、それまで絶対であった宗教的な権威に対する疑問が生まれ、物事を科学的に理解しようとする試みが流行した時代でした。
ヒュームの思想はその影響を大きく受けています。
ヒュームの主な思想
ヒュームの主な思想を解説します。
経験主義
「経験主義」とは、すべての知識は経験から得られるという考え方です。
ヒュームによれば、人間の認識は生まれつき持っている能力ではなく、生きていく中で身につける感覚や経験に基づいています。
ちなみに、経験主義とは逆に、人間が生まれつき理性(物事の正しい判断基準)を持っていると考えるのが「合理主義」です。ヒュームはこの合理主義を否定しました。
知覚の束
ヒュームの有名な言葉に、「人間は知覚の束(たば)である」というフレーズがあります。
ヒュームによれば、人間は一つ一つの経験が束になったような存在であり、その束に次々と新しい経験が加わることによって、束の形が変化して変化していきます。
現代の美容の話で、「肌の細胞は定期的に新しいものに生まれ変わっている」とよく言いますが、ちょっと似てますね。
ヒュームは「知覚の束」の概念を用いて、人間を経験の集合体であると説明しました。言い換えれば、経験していないこと(予想や理屈など)の存在を否定しているといえます。
因果関係の否定
ヒュームは、因果関係とは人間が習慣的に物事を連想することによって生じる、主観的な概念にすぎないと主張しました。
例えば、紙に火をつけたら紙が燃えたとします。この時、「紙に火をつけた」ことと「紙が燃えた」ことの間には、因果関係が存在するように見えます。つまり、「紙に火をつけた」という原因によって、「紙が燃えた」という結果が生じているように見えます。
ところがヒュームはこの因果関係は人間の主観に過ぎず、「紙に火を近づけた」ことと「紙が燃えた」ことは別々の現象であり、たまたまそのような結果が生じたのだと考えます。
つまり、99回やってみて99回同じ結果が起きたとしても、100回目には異なる結果が得られるかもしれないということです。
ヒュームは、実験によって観察できたことだけが客観的な事実であり、それ以外は人間が勝手に想像した主観に過ぎないと主張しました。この主張は、ヒュームの徹底した経験主義のスタンスを表しています。
道徳は理性ではなく感情
ヒュームは、道徳は理性ではなく感情に基づくものだと主張しました。
理性とは、全ての人間が持っている共通の考え方のことであり、合理主義で重視される概念です。
ヒュームによれば、道徳というのはすべての人が納得できるものではなく、個人個人の感情に過ぎません。
例えば、「道路に落ちているゴミを拾うべきだ」という道徳は、全ての人が共通に持っている感覚ではなく、その人の「ゴミを拾いたい」という感情から沸き起こるものだということです。
他の思想との関係
過去の思想家との関係
ヒュームは、イギリス経験論の先駆者であるジョン・ロックの影響を受けています。
ロックは、人は生まれた時点では「タブラ・ラサ(=白紙)」であり、そこに色々な経験が書き込まれることによって変化していくのだと主張しました。
ヒュームはロックの経験論をさらに発展させ、因果関係や道徳に関する独自の主張を展開しました。
後の思想家への影響
ヒュームの思想は、後世の哲学者に大きな影響を与えました。
特に、ドイツ観念論の哲学者イマニュエル・カントは、ヒュームの因果関係に対する懐疑主義に刺激を受けました。
ヒュームの思想を現代社会で生かす方法
「善」vs「善」の争いを避ける
人は自分の大事な価値観を否定されたとき、ついつい腹を立ててしまうものです。特に、異なる価値観がぶつかってしまった場合は、議論が収集しないこともあります。
この時、両者はそれぞれ自分の主張こそが「善」(相手の主張が「悪」)だと考えており、なおかつ自分の「善」を全ての人に共有できると信じてしまっているかもしれません。
ヒュームによれば、道徳は客観的な「善」ではなく、ただの感情です。自分の主張が感情論であると仮定し、落としどころを探ってみましょう。
先入観の排除
人間は、しばしば誤解や先入観を持ってしまう生き物です。
もしあなたが何かの意見を持ったとき、その考えに至った論理を検証し、経験から説明できない前提を元に考えていないかどうかを探してみましょう。
その前提を疑うことで、先入観を排除できるかもしれません。
ヒュームのおすすめ入門書
ヒュームの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
【おまけ】寛容さが裏目に出る
ヒュームは、多くの人々と友好的な関係を築いていましたが、その寛容さが裏目にとなってしまったこともあったようです。
同時代の哲学者ルソーがフランス政府から追われていた際、ヒュームはルソーの亡命を手助けし、匿ってあげたことがありました。
しかしルソーは被害妄想が強い性格であったため、その好意を疑ってしまい、それがきっかけで2人は絶交してしまったそうです。
まとめ
この記事では、「知覚の束」をはじめとするヒュームの思想をわかりやすく解説しました。
ヒュームの哲学はとっつきづらく、直感的には理解できない思想です。
しかし、そこが哲学の面白いところです。
そういう思想をたどっていけば、現代社会の見え方も変わってくるかもしれないですね。