エーリッヒ・フロム(1900 - 1980)は、フランクフルト学派の哲学者です。
このページでは、『自由からの逃走』『愛するということ』などの名著で語られる、フロムの思想を分かりやすく解説します。
また、フロムの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- フロムの主な思想
- フロムの思想を現代社会で生かす方法
- フロムのおすすめ入門書
フロムの生涯と時代背景
フロムが生きたドイツは、第一次世界大戦の敗北から世界恐慌を経て、ナチス政権が台頭していく時代でした。
ナチス政権はユダヤ人迫害などの非人道的な政策を行うと同時に、権力を集中させ、独裁体制を築きました。
しかし、それらの政策は全て、民主主義のプロセスを経ていました。
つまり、多数の国民の賛成のもと、非人道的な独裁政権が誕生してしまったということです。
自身がユダヤ人でもあるフロムはフランクフルト学派に所属し、人々がなぜ自由を放棄し独裁体制を生み出してしまうのか、という問いと向き合いました。
フロムの主な思想
フロムの主な思想を解説します。
自由からの逃走
フロムは著書『自由からの逃走』の中で、人間が自ら自由を放棄してしまう心理的メカニズムを明らかにしました。
フロムによれば、人間はもともと自己決定の自由(=自身の運命を自分で決める能力)を持っています。
しかし一方で、人間は自由になることで孤独感や無力感を抱えてしまい、結果として逆に自由から逃避してしまう傾向も持っています。
自由からの逃避は「権威主義への逃避」「破壊主義への逃避」「機械的画一性への逃避」という3つの形となって表れます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
権威主義への逃避(依存)
「権威主義への逃避」とは、他人を自分の権威の支配下に置いたり、他人の権威に自分の自由を託すことによって、身の安全を求める心理です。前者はサディズム、後者はマゾヒズムの心理につながります。
例えば、自分でビジネスを起こした方が自由になれるにも関わらず、事業の失敗を恐れるあまり、敢えて会社に支配されるサラリーマンとして働いてしまうことが挙げられます。
破壊主義への逃避(破壊)
「破壊主義への逃避」とは、他者や自分自身を攻撃することによって不安から逃れようとする心理です。
例えば、恋人の心が自分から離れることを恐れるあまり、恋人の浮気を疑ってしまったり(他者への攻撃)、フラれたショックをごまかすために暴飲暴食をしてしまったり(自分への攻撃)することが挙げられます。
機械的画一性への逃避(同調)
「機械的画一性への逃避」とは、周囲の人と合わせることによって、自分が自由に発想することを放棄してしまう心理です。
例えば、「ダサい」と思われることを恐れるあまり、無難な服装や髪型を選んでしまうことが挙げられます。
愛するということ
フロムは著書『愛するということ』の中で、人を愛する方法を考察しました。
フロムによれば、人間は孤独を恐れる動物であり、常に他者から愛されることを望んでいます。
しかし、多くの人は自分がいかに愛されるかということに焦点を当てており、相手を愛することに目が向いていないとフロムは言います。
フロムは、誰かを愛する前段階として、まずは自分の人格を磨き、ゆるぎない自己を確立することが必要であり、そのうえで、自ら能動的に相手を愛することが必要だと考えました。
そうすることで初めて、相手の中に愛が生まれるということです。
そして愛によって、心の安全が確保され、自由を投げ出さないような強い人間になることができます。
他の思想との関係
フロムの思想は、フロイトの影響を受けていると考えられます。
フロイトは人間の心の「無意識」の領域に焦点を当てたことで有名ですが、フロムはフロイトの無意識を中心とした心理学を継承したうえで、人間の自由や愛といった、より深いテーマに結びつけたと言えます。
また、周囲の状況が人間の心理に影響を与えるというフロムのアイディアは、マルクス主義の影響を受けていると考えられます。
マルクスは、経済の状況が階級闘争を生み、それが人々の意識や社会のルールを変えていくと主張しました。
実践!フロムの思想を現代社会で生かす方法
フロムの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
「逃げ」を自覚する
私たちの行動の中には、何かから「逃げる」心理によるものがあります。
無難な服装選び、無難な就職先、無難な恋愛などなど。
アリストテレスは、「人間は社会的動物である」と言いましたが、私たちの無難な行動の多くは、群れから外れたくないという無意識な本能によるものであると言えます。
狩猟採集時代とは異なり、現代社会では、必ずしも群れることが正解とは限らない場面もあります。
そんな時は自分が「何から逃げているのか」「逃げなかったらどうなるのか」を考えると、選べる選択肢が増えるかもしれませんよ。
フロムのおすすめ入門書
フロムの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)フロムの面白エピソード
仏教とのかかわり
フロムは晩年、仏教にも関心を示していたようで、仏教学者である鈴木大拙との共著『禅と精神分析』を出版しています。
日本とも深い関わりがあったのですね。
まとめ
このページでは、『自由からの逃走』と『愛するということ』を中心とするフロムの思想を解説しました。
極限状態にあった当時のドイツの人々の心は計り知れないものがありますが、そこから生まれた理論は、現代社会に生きる私たちの人生にも、きっと良い影響を与えてくれると思います。