ジャン=ジャック・ルソー(1712 - 1778)は、社会契約論を唱えたスイス出身の哲学者です。
この記事では、「一般意志」「憐みの心」といったルソーの思想を分かりやすく解説します。
- ルソーの主な思想
- ルソーの思想を現代社会で生かす方法
- ルソーのおすすめ入門書
ルソーの生涯と時代背景
ルソーは、1712年にスイスのジュネーブで生まれました。
生後間もなく母親が死亡し、10歳の時に父親が蒸発してしまったため、ルソーは牧師の家庭に引き取られます。
しかし、牧師の妹からたびたび暴力を受けてしまい、15歳の時に家を出て放浪の旅をするなど、不遇な少年時代を送りました。
その後も人妻との不倫など波乱万丈な青年時代を送りましたが、38歳の時に懸賞論文で一躍有名になり、その後は文明社会を批判する思想家として活動しました。
ルソーが生きた18世紀は、理性や科学によって世界の姿を明らかにしようとする「啓蒙主義思想」が盛んな時代でした。
それに対しルソーは、文明がいかに人間を堕落させていったかを主張しました。
ルソーの主な思想
特殊意志・全体意志・一般意志
ルソーは、人間の意志を「特殊意志」「全体意志」「一般意志」の3つに区分しました。
特殊意志
「特殊意志」とは、個人の欲望から生まれる意志です。
たとえば、ある政策によって自分の税金が減る場合に「税金を払いたくない」という欲望から生まれる「賛成!」という気持ちが特殊意志にあたります。
全体意志
「全体意志」とは、特殊意志を合計した気持ちであり、個人の欲望を合計した意志であるとも言えます。
たとえば、ある政策が人口の70%の人々にとって得で、残りの30%の人々にとって損であった場合は、「賛成70%反対30%」というのが全体意志にあたります。
全体意志は、個人の欲望である特殊意志を合計しているため、全体意志を実現することは、その社会にとって必ずしも良い結果を生むとは限りません。
一般意志
「一般意志」とは、個々の利害を超えて、共同体にとっての利益(=公共益)を追求する意志のことです。
たとえば、ある政策が自分にとっては損であるが、社会全体にとってはプラスに働くような場合に、その政策に賛成する気持ちが一般意志にあたります。
つまり、自分のことだけではなく、社会全体のことを考えて出した結論が一般意志です。
特殊意志 | 全体意志 | 一般意志 | |
---|---|---|---|
特徴 | 個人の欲望から 生まれる意志 |
個人の欲望を 合計した意志 |
公共益を追求 する意志 |
具体例 | 自分の税金を 下げたい |
多数派の税金を 下げたい |
一番困っている 人を助けたい |
ルソーの評価 | × | × | ○ |
自然状態
「自然状態」とは、国家や政府が存在する以前の世界のことを言います。
ルソーは、自然状態では人間は自由で平等であり、平和であったと主張しました。
憐れみの心
「憐(あわ)れみの心」とは、他人の不幸に共感して悲しむ心のことを言います。
ルソーは、人間が生まれつき憐れみの心を持っていると考えました。
そのため、政府が存在しない自然状態では、人々は自発的に困っている他者を助け合うような世の中であったとルソーは主張しました。
社会契約
「社会契約」とは、人々が自分たちの権利を守るために、自らの権利の一部を譲渡して、社会(=政府)を作る契約を結ぶことを言います。
ルソーによれば、学問や文明の発展によって、人々が本来持っていたはずの憐れみの心を失ってしまい、社会が不平等になってしまいました。
この不平等な状態から脱却するために、人々は社会契約を締結し、一般意志に基づいて運営される社会を生み出す必要があります。
他の思想との関係
イギリスの哲学者であるトマス・ホッブズやジョン・ロックは、ルソーと同様、社会契約論を唱えました。
ホッブズは自然状態を「万人の万人による闘争」状態であったと想定しました。
そして、人々は自分の身を守るために、社会契約によって絶対的な権力を持つ国家を生み出すのだと主張しました。
また、ロックはルソーと同様に自然状態を平和な世の中であったと想定しました。
しかし、ロックはルソーとは異なり、人々は自分の財産権を保護するために社会契約を結ぶのだと主張しました。
ルソーの思想を現代社会で生かす方法
自然の中でストレス解消
ルソーによると、人間は基本的に生まれた時点(自然状態)では善良であり、社会に出ることによって、その善良さが失われてしまいます。
実際に、私たちが感じるストレスの多くは、社会が存在することによって生まれるものです。
そこで、ストレスを感じた時には、海や山など自然を感じられる場所に行ってみてはいかがでしょうか。
もともとは自然があって、その後に人間社会が生まれたという事実に気づくだけで、少しだけ気が楽になると思います。
事情があって都会から離れられない人は、YouTubeで自然音を聞くのもおすすめです。
ルソーのおすすめ入門書
【おまけ】ルソーの面白エピソード
教育論
ルソーは著書『エミール』の中で、架空の少年エミールの成長を通して、自然を重視した教育論を主張しました。
ルソーは、人はもともと善良であり、社会がその善良さを歪めてしまうと考えました。
そのうえで、教育の目的は、子供が生まれつき持っている善良な心を引き出し、自然と調和した人間に育てることだと主張しました。
『エミール』は哲学書というよりは育児本の要素が強い本ですが、自然な状態を重視するルソーの思想が色濃く反映されています。
まとめ
この記事では、「憐みの心」「一般意志」といったルソーの思想を解説しました。
ルソーの思想は、一言でいえば「自然な状態を大事にしよう」ということです。
文明が発達した現代では、原始的な自然の中で生きることはなかなか難しいですが、元々あったものに目を向けるという意味では、日常生活の様々なシーンで役に立つ思想だと思います。