ジョン・ロック(1632 - 1704)は、経験論や社会契約論を唱えた近代イギリスの哲学者です。
このページでは、「タブラ・ラサ」「抵抗権」といったロックの思想を分かりやすく解説します。
また、ロックの思想を、現代に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。
- ロックの主な思想
- ロックの思想を現代社会で生かす方法
- ロックのおすすめ入門書
ロックの生涯と時代背景
ロックは1963年にイングランドの弁護士の子として生まれ、古典や哲学を学びました。その後は大学講師、政治家の秘書、医師など様々な分野で活動しました。
当時のイギリスは絶対王政と呼ばれる時代で、「国王の権利は神から与えられている」とする「王権神授説」がまかり通っていました。
ロックは王権神授説を批判していたため、国王からの迫害を逃れるために一時期は亡命もしています。
しかし、1688年に起きた名誉革命によって国王が追放されると、ロックは帰国し、本格的に執筆活動を行いました。
ロックの主な思想
ロックの主な思想を解説します。
タブラ・ラサ(白紙)
「タブラ・ラサ」とは、オランダ語で「白紙」という意味です。
ロックは、人間が生まれた時点ではまだ何も書かれていない白紙のような状態であり、経験によって様々な知識を獲得していくと主張しました。
例えば、幼少期にリンゴやバナナに触れることで果物という存在を知り、学生時代に化学を学び、、、といったように、経験によって色々な情報が書き換えられていくということです。
このように、人間の認識は経験から生まれるとする考え方を「経験主義」といいます。
ロックは経験主義の立場から、人の認識は経験によってのみ形作られるという主張をするために、「タブラ・ラサ」の概念を提唱したのでした。
ちなみに、経験主義と対立するものとして「合理主義」という思想があります。
経験主義と合理主義の対立は、哲学の中でも代表的なテーマであり、その後の哲学にも大きな影響を与えました。
自然状態
「自然状態」とは、国家や政府が存在する以前の世界のことを言います。
ロックは、自然状態では人間は自由で平等で平和な世の中であったと主張しました。
社会契約
「社会契約」とは、人々が自分たちの権利を守るために、自らの権利の一部を譲渡して、国家(=政府)を作る契約を結ぶことを言います。
ロックによれば、国家ができる以前の自然状態では、人々は自由に行動するため、結果として「持つ者」と「持たざる者」が出てしまいます。
すると貧富の差をめぐって争いが起き、世の中が不安定になってしまいます。
そこで、人々は敢えて自分の自然権の一部を譲り渡すことによって、政府を作ります。
抵抗権
「抵抗権」とは、政府がその権限を超えて国民の権利を侵害してきた場合に、国民が政府に抵抗する権利を言います。
ロックによれば、政府は絶対的な存在ではなく、もし人々が譲渡していない権利にまで政府が手を出してきた場合は、人々は政府に抵抗する権利があります。
抵抗権の思想は、当時イギリス議会の統治下にあったアメリカの独立戦争や、国王による独裁政治を打倒したフランス革命に影響を与えました。
他の思想との関係
ロックの経験論は、その後イギリスで様々な哲学者に参照されました。
中でもデイヴィッド・ヒュームはロックの思想をさらに徹底し、因果関係を徹底的に疑う思想を展開しました。
また、自然状態や社会契約論の思想については、同時代のトマス・ホッブズやジャン・ジャック・ルソーもそれぞれ提唱しました。
ただし、自然状態がどのような状態であったかという想定や、人々が社会契約を結ぶ意義については、それぞれの哲学者が独自の見解を出しています。
ロックの思想を現代社会で生かす方法
ロックの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
集団が存在する意味を考える
ロックの思想では、国家や政府は絶対的な存在ではなく、あくまでも人々が持つ自然権を守るために存在すると考えます。
これを家族や会社の話に応用してみてはいかがでしょうか。
例えば家族というもの自体が絶対的なのではなく、所属するメンバーの一人ひとりが幸せになるために家族が存在すると考えれば、必ずしも同じ家に住む必要は無いかもしれません。
また、子育てや介護の一部をプロに任せるという選択肢も、それほど悪いことではないのかもしれません。
劣等感をモチベーションに変える
自分よりも優れた人を見たときに、劣等感を抱くこともあるでしょう。
しかし、ロックの経験主義で考えれば、これから経験を積むことによって、自分もその人に近づけるかもしれないし、何ならその優れた人も色々な経験によって形成されているかもしれません。
近年では研究によって、才能や性格には遺伝の影響が大きいということが判明してきていますが、「それはあくまでも科学の世界の話」と割り切り、少なくとも自分の心の中では経験主義を頼りにして、モチベーションを向上させていきましょう。
ロックのおすすめ入門書
ロックの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)ロックの面白エピソード
医学への興味
ロックは哲学だけでなく、医学にも興味を持っていました。
彼はオックスフォード大学で医学を学び、実際に医者として働いた経験もあります。
この医学の知識が、彼の哲学においても心身問題や人間の認識に関する理論の土台となっています。
哲学者でありながら医者もこなすロックの姿は、今なお文系・理系の概念に縛られている筆者にとっては遥か遠くに見えてしまいます。
しかし、哲学を意味する「philosophy」はもともと「知を愛する」という意味なので、分野を限定せず、「知りたい」という気持ちが大切なのでしょうね。
まとめ
この記事では、「タブラ・ラサ」「抵抗権」といったジョン・ロックの思想を解説しました。
ロックの思想は経験論と社会契約論に分けられますが、そのどちらも後世の哲学に大きな影響を与えています。