アレクシス・ド・トクヴィル(1805 - 1859)は、フランスの思想家です。
このページでは、民主主義と平等の関係性をはじめとするトクヴィルの思想を分かりやすく解説します。
また、トクヴィルの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- トクヴィルの主な思想
- トクヴィルの思想を現代社会で生かす方法
- トクヴィルのおすすめ入門書
トクヴィルの生涯と時代背景
トクヴィルはフランスの貴族の家系で育ちましたが、フランス革命の影響でリベラル思想に傾倒しました。
その後、当時は民主主義が最も進んでいるとされていたアメリカを旅行し、自由や平等を探求する人々の生活を観察し、民主主義が持つ可能性と問題点を考えました。この時の経験が彼の思想の基礎となっています。
その後は政治家や外務大臣として活躍しますが、ルイ・ナポレオンのクーデターにより逮捕され、政界を引退しました。
トクヴィルの主な思想
トクヴィルの主な思想を解説します。
自由と平等の矛盾
トクヴィルの思想の中心にあるのは、「自由」と「平等」です。
トクヴィルは、平等が極端に追求されると権力の集中につながり、その結果として個々の自由が侵害されてしまう可能性があると主張しました。つまり、行き過ぎた平等は、個人の自由を侵害してしまうということです。
フランス革命では、それまでの国王・貴族・聖職者といった特権階級への反発から、市民は平等の理念を過度に強調してきました。その結果、「少しでも平等ではないものは厳しく取り締まる」という全体主義的な国家が形成され、個々の自由が脅かされる事態を招いてしまいました。
民主主義の理想と課題
トクヴィルは、自身が観察したアメリカ社会を参考に、民主主義の理想と課題について考えました。
トクヴィルによれば、民主主義の理想は、国家より小さなレベルで地域コミュニティが形成され、市民がコミュニティの中で力を合わせることで、結果として社会全体が発展していくというものです。
具体的なコミュニティの姿として、トクヴィルはアメリカにおけるカトリック信仰を例に挙げ、宗教的なつながりの重要性を説いています。
一方で、民主主義には課題もあるとトクヴィルは言います。それは、ひとたびマスコミによって大衆が洗脳されてしまえば、その社会は多数決によって誤った選択肢を取り続けてしまうということです。
トクヴィルは、この課題を解決するためには「知識人」の存在が必要だと主張します。知識人とは、宗教指導者や学者など、大衆とは異なる目線で世界を理解しようとする人たちのことです。
現代社会の姿を見透かしているような、非常に鋭い視点ですね。
中産階級の台頭とその影響
トクヴィルは、産業革命による中産階級の台頭についても着目しました。
中産階級とは、資本家階級でもなく労働者階級でもない人々のことを言います。つまり、人を雇ったり雇われたりという関係の外にいる人たちです。例えば、1人で事業を行っている医者や農家、フリーランスの記者などが該当します。
トクヴィルは、中産階級が資本を所有し、社会的地位を向上させることで、政治権力が分散されると主張しました。つまり、中産階級の存在が政治的な力のバランスを調整し、それによって国家の全体主義化を防ぐことができるということです。
実際に、革命前のフランスでは、国王・貴族・聖職者と平民の間に貧富の差が広がっており、その中間に位置する階級がいませんでした。また、革命後のフランスでも、平等な市民を一部の政治家がコントロールする形になってしまい、結果として中産階級は育ちませんでした。
他の思想との関係
トクヴィルは、同時代の哲学者であるジョン・ステュアート・ミルと親交がありました。ミルはイギリスの思想家で、自由を重視した哲学者として知られています。
また、大衆に関するトクヴィルの考察は、ユダヤ人哲学者のハンナ・アレントに影響を与えていると考えられます。アレントは、ドイツの大衆がナチスに傾倒してしまった原因を考察しました。
実践!トクヴィルの思想を現代社会で生かす方法
トクヴィルの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
"ゆるいつながり"に参加する
トクヴィルは国家と個人の中間に位置する組織を重視しました。
情報化が進む現代社会では、かつて多くの人々が参加していた商店街や町内会などの"ゆるいつながり"が解体されていっています。
かつて人々は、これらのコミュニティ経由で情報を得ていたため、個人はどこかのコミュニティに参加しなければ生きていけませんでした。
一方、現代では情報もモノも、全てがインターネット経由で手に入るため、個人にとってコミュニティは必須ではなくなりました。しかし、アリストテレスが言うように私たち人間は「社会的動物」であり、誰かと一緒にいることで幸せを感じるようにできています。
一人でも生きていける時代だからこそ、あえて能動的にコミュニティに参加してみてはいかがでしょうか。
トクヴィルのおすすめ入門書
トクヴィルの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)トクヴィルの面白エピソード
リベラル?保守?
トクヴィルの思想は、個人の自由を重視するリベラル的な側面と、宗教や伝統を重視する保守的な側面があります。
宗教や伝統は、一見すると個人の自由を縛る存在のように思えますが、そのような中間団体があることによって、人々が階級などの立場に縛られずに自由に議論ができるという側面もあります。
「●●主義」という言葉でひとくくりにできないところがトクヴィルの魅力の1つだと思います。
まとめ
このページでは、トクヴィルの思想を解説しました。
トクヴィルの思想は、行き過ぎた平等が結果として個人の自由を侵害してしまうというものでした。そして、そのような事態を避けるためには、宗教や伝統など、自分の利害とは別に、様々なことを考える「知識人」の存在が重要であると言います。
私たち庶民も、「知識人」とはいかないまでも、マスコミに操作される大衆にならないように、日々学び続ける必要があるのだと思います。