わかりやすく解説!ハンナ・アーレントの思想

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ハンナ・アーレント(1906 - 1975)は、20世紀を代表するユダヤ人哲学者です。

このページでは、アーレントの思想をわかりやすく解説します。また、アーレントの思想を、現代に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。

  • アーレントの主な思想
  • アーレントの思想を現代社会で生かす方法
  • アーレントのおすすめ入門書

アーレントの生涯と時代背景

アーレントはドイツのハノーファーに生まれ、マールブルク大学でマルティン・ハイデガーたちから哲学を学びました。ハイデガーの影響はアーレントの思想に深く刻まれ、彼女の思考の土台となりました。

また、アーレントが生きた時代の政治状況も、彼女の思想に影響を与えています。彼女が大学生だった1930年代、ヨーロッパでは第二次世界大戦が勃発し、ドイツではナチス政権のもと、ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)が行なわれていました。アーレント自身もナチスの迫害を受けてしまい、ドイツを離れることを余儀なくされました。その後彼女はアメリカに亡命し、ニューヨークでの生活を始めます。

アーレントの主な思想

Barbara Niggl Radloff, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アーレントの主な思想を紹介します。

公共性

公共性とは、個々の人々が共同で構成する、社会的な空間のことを指します。彼女は、この公共性が人間の自由を可能にすると主張しました。なぜなら、そこでは私たちは自分の意見を表現し、他人と議論し、共に行動することができるからです。

行動の自由

アーレントは行動の自由を重視しました。彼女にとって、行動の自由とは他人と共に新しい可能性を生み出す力、すなわち「開始性(initiative)」を意味します。アーレントは、この行動の自由が独裁政治から私たちを守り、社会を新たな方向へと導く力源であると考えました。

悪の平凡性

アーレントは「悪の平凡性」という概念を提唱しました。これは、ユダヤ人の大量虐殺が、特別な邪悪さを持つ人々によってではなく、普通の人々によって行われたという観察から来ています。アーレントは、人間が思考を放棄し、ただ命令に従うよになってしまうと、きっかけがあった時にその人間を極端な悪に導いてしまうと主張しました。

他の思想との関係

本と指輪の写真

アーレントの思想は、彼女が学んだ哲学者たち、特にマルティン・ハイデガーとカール・ヤスパースからの影響を強く受けています。ハイデガーからは存在哲学の視点を、ヤスパースからは人間の自由と個々の責任についての視点を学びました。

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また、アーレントの「悪の平凡性」の概念は、フランスの思想家トクヴィルの影響を受けていると考えられます。

トクヴィルは、大衆の暴走による民主主義の危険性を指摘しました。

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しかし、アーレントの思想は彼女自身の経験と観察に基づいており、これらの哲学者からの影響を超えて独自のものとなっています。特に、彼女の「公共性の重要性」や「行動の自由」、「悪の平凡性」は、彼女自身の時代の社会政治的な問題に対する洞察に基づいています。

アーレントの思想は、後の政治哲学や社会学に大きな影響を与えました。彼女の考えた「公共性の重要性」は、現代のデモクラシー理論や公共空間の研究に影響を与えています。また、「悪の平凡性」は、大量虐殺やテロリズムの研究、倫理学において重要な視点を提供しています。

アーレントの思想を現代に生かす方法

複数のコミュニティに身を置く

アーレントによれば、人々が意見を言い合えるような公共の場に身を置くことで、思考停止を避けることができます。現代では、多くの人が家族・会社・気の合う友達といった限られた関係性の中だけで生きています。そこで行動範囲をもう少し広げて、地域の集まりに参加したり、社会人サークルに入ったりすることをお勧めします。他者の考えを聞く機会が増えることで、自分の考えをより客観視できるでしょう。

極端な主張と距離をとる

アーレントによれば、ナチスの恐ろしい思想を体現していたのは、わかりやすい悪人ではなく、ごく平凡な一般人ということでした。現代のSNSや動画サイトでは、私たちの好みに合わせてコンテンツが紹介されていくため、少しの意見の偏りがネットを見ているだけて増幅されてしまうことが考えられます。それを避けるためには、あらかじめ極端な主張に警戒感を持っておかなければなりません。誰かの意見に対して、「賛成だけど言い過ぎでは?」と思ったら、敢えてそれに反する主張を考えたり、検索してみるのはいかがでしょうか。

アーレントのおすすめ入門書

アーレントの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。

 

 

【おまけ】アーレントの面白エピソード

恋愛よりも自分の思想を優先

アーレントは独立心が強く、自分の考えを貫くことで知られていました。彼女は学生時代、恩師であるマルティン・ハイデガーと恋愛関係にありました。しかし、ハイデガーがナチスに傾倒すると、すぐに彼との関係を断ち切りました。恋愛にうつつを抜かさないタイプの女性だったのですね。

ヘビースモーカー

アーレントは熱心な喫煙家で、1日に40本ものタバコを吸っていたと言われています。彼女にとって、タバコは思考を深めるための道具だったのかもしれません。

まとめ

この記事では、ハンナ・アーレントの思想をわかりやすく解説しました。

アーレントの思想は彼女の人生や時代背景から強い影響を受けています。アーレントの本を読むと、反ユダヤ主義への憤りが、怖いくらい冷静な語り口で描かれています。そのスタンスだけでも、女性として非常にお手本になる哲学者だと思います。