フーコーの思想を分かりやすく解説!知と権力の関係、規律化とは?

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ミシェル・フーコー(1926 - 1984)は、フランスの構造主義、もしくはポスト構造主義の哲学者です。

このページでは、「知と権力」「監獄と規律化」「正常と異常」といった、フーコーの思想を分かりやすく解説します。また、フーコーの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。

  • フーコーの主な思想
  • フーコーの思想を現代社会で生かす方法
  • フーコーのおすすめ入門書

フーコーの生涯と時代背景

フーコーは1926年にフランスのポワティエで生まれました。父親が医師だったため、当初は精神科医を目指していましたが、学生時代に哲学と出会い、最終的には哲学者として名を上げることとなりました。

フーコーは同性愛者であったり、若い頃に自殺未遂をしたり、一時期は精神的なカウンセリングを受けたりと、非常に特殊な経験をしています。これらの経験が、「異常性」や「狂気」に関する彼の思想に大きな影響を与えていると考えられます。

フーコーの主な思想

フーコーの主な思想を紹介します。

知と権力

フーコーは、「知」と「権力」が密接に関連していると主張しました。

フーコーによれば、「知(=知識)」とは、純粋に真理を追求するものではなく、何らかの権力構造を生み出す装置となります

例えば、医者から「あなたは高血圧です。このままでは脳梗塞になってしまうので、適度な運動をしましょう。」と診断されたとしましょう。脳梗塞になりたくないあなたは、毎日ジョギングをすることを決意します。

この医者は医学の「知識」に基づいて、あなたにアドバイスをしています。また、あなたはそのアドバイスを踏まえて、あくまでも自分の意思でジョギングすることを決めています。

しかし見方を変えれば、その医者のアドバイスは、もともとジョギングをしていなかったあなたに対して「毎日ジョギングさせる」という強制力を生み出している、とも言えます。この強制力は、医者が持っている医学の知識に基づいています。

つまり、医学という「知識」が、患者の行動を強制する「権力」構造を作っているのです。

監獄と規律化

「規律化」とは、人々をルールに従わせることを言います。

フーコーは、私たちが生活する社会全体が、まるで「監獄」のように、常に何者かに監視され、規律され、評価される世の中になっていると警告しました。

フーコーは著書『監獄の誕生』の中で、中世から近代にかけて「懲罰」の形が変化していることに注目します。中世の社会では、罪を犯した者は火炙りや拷問といった身体的な懲罰を受けていました。しかし近代以降では、罪人は監獄に入れられ、自由を奪われるという形で罰せられます。

下の写真は、フーコーが近代の象徴として取り上げた、「パノプティコン」という種類の監獄です。パノプティコンは中央の監視塔から全ての独房が監視できる形になっており、受刑者にとっては常に監視されていることを実感するような作りになっています。

パノプティコン型の監獄
写真の引用元:Friman, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

フーコーによれば、近代の監獄は単に人々を罰するだけではなく、人々を監視し、規律化する機能を持っています。

そして、監獄の機能は監獄そのものを超えて、学校、病院、工場など、私たちの日常生活の場でも、監視と規律化のメカニズムを作っています。

例えば学校では、教師が生徒たちを指導したり、評価したりします。それは見方を変えれば、生徒は常に教師から監視され、校則を守るように規律化されている、と言うこともできるでしょう。

正常と異常

フーコーは、「正常」や「異常」という概念は、あらかじめ線引きがされているものではなく、社会の構造によって規定される相対的なものであると主張します。

「正常」とは、社会的な規範、期待、ルールに従うことを意味します。一方、「異常」とは、これらの規範や期待から逸脱することを指します。

フーコーによれば、「正常」「異常」といった区別は必ずしも固定的で普遍的なものではなく、それぞれの社会、文化、時代によって形成され、変化するものです。

そして、その社会の基準で「異常」とされた人々は、規律化のプロセスを通じて正常化されるか、制御と監視の対象となってしまいます。

例えば、一昔前のビジネスマンは、ほぼ全員がスーツを着用していました。その当時にクールビズの格好をしていたら「異常者」と見なされ、スーツを着ることを強制されたり、懲罰の対象になっていたことでしょう。

つまり、「スーツを着ていないビジネスマンは異常」という基準は、絶対的な真理などではなく、ある特定の年代の、ある特定の社会の構造の中でのみ機能する、限定的なものであったということです。

このように、特定の時代の特定の人々の間で機能する規範を、フーコーは「エピステーメー」と呼びました。

他の思想との関係

フーコーは、ニーチェやハイデガーの実存主義思想に影響を受けています。

実存主義では、個人は社会の規律によってではなく、自らの行動によって人生を切り拓いていくことができると考えます。

フーコーはこれらの思想に反対する形で、知が権力を生み出し、その社会の「異常」な人々を規律化していく構造的なプロセスを主張したため、構造主義の哲学者と位置付けられています。

また、フーコーの思想は、その後のポストモダニズム思想に大きな影響を与えました。ポストモダニズムでは、「誰もが認める正解」というものを否定し、正解を出さないこと自体に価値を見出す思想です。

代表的な哲学者に、フランスのジャック・デリダがいます。

実践!フーコーの思想を現代社会で生かす方法

「当たり前」を疑う

社会の中で「当たり前」とされているルールの中には、必ずしも全ての時代で通用しないものが多く存在します。

しかし、私たちは知らないうちにそのルールを守り、その範囲内でしか物事を考えられなくなってしまいます。

これからはAI技術の発展や社会実装が進むことで、これまでの「当たり前」がどんどん意味を失っていくことでしょう。そんな時は、数学の途中式を検証するように、そのルールがなぜ「当たり前」なのかをよく考えることをお勧めします。

ひょっとしたら、それまでの自分の「当たり前」を疑うことで、何か新しい発想に行き着くことがあるかもしれません。

美学を持つ

私たちは、人生のあらゆる場面で他者からの評価にさらされています(例えば、美人やイケメンかどうか、お金持ちか貧乏か...などなど。)。しかし、これらは全て他者から見た評価にすぎません。その評価を上げることに必死になってしまうと、たとえ目標を実現したとしても、幸福度は上がらないでしょう。

本当に大事なことは、「他の人がどう思うかは知らないけど、自分はこうしたい」という、あなただけの美学を持つことです。それによって、社会構造の変化とは関係なく、自分の人生を選択していくことができるでしょう。

美学には正解は無いため、常に正解を求めようとするAIは、これから先も美学を持つことができないはずです。

フーコーのおすすめ入門書

フーコーの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。

 

まとめ

この記事では、「知と権力」「監獄と規律化」「正常と異常」といった、ミシェル・フーコーの思想について解説しました。

フーコーの思想の中で一貫しているのは、私たちの行動が知らず知らずのうちに「目に見えない何か」によって決定されているという考え方です。AIやアルゴリズムが普及する現代では、最も読むべき思想家の一人ではないかと思います。