
エマニュエル・レヴィナス(1906 - 1995)は、「他者論」で有名なフランスの哲学者です。
この記事では、「顔」や「イリヤ」といったレヴィナスの思想をわかりやすく解説します。
また、レヴィナスの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- レヴィナスの思想
- レヴィナスの思想を現代社会で生かす方法
- レヴィナスのおすすめ入門書
レヴィナスの生涯と時代背景

レヴィナスは1906年にリトアニアのユダヤ人家庭に生まれ、後にフランスに帰化しました。
第二次世界大戦ではフランス軍に従事しましたが、ドイツ軍の捕虜となります。
彼は帰国すると、多くの親族がナチスによって殺害されていたことを知ります。
レヴィナスは、大切な人たちがいなくなったにも関わらず、世界が何事もなかったかのように動き続けているという事実を知りました。
この経験からレヴィナスは、全体主義(ひとつの考えがすべてを支配する状態)を批判する思想を唱えました。
レヴィナスの主な思想

顔
「顔」とは、相手を思い浮かべたときに浮かぶ、見た目や雰囲気、そしてそこから感じ取る主観的な印象を含めた全体的なイメージのことをいいます。
レヴィナスは、相手の表情や雰囲気だけではなく、その人から受ける自分なりの印象も含めて「顔」と呼びます。日本語で「顔を合わせる」や「別の顔を見た」という時の「顔」に近いですね。
レヴィナスは、「顔」のことを「常に溢れ続ける情報・意味の源泉」と表現しています。
たとえば、第一印象で「怖いな…」と感じた人でも、付き合っていくと意外と優しい一面を発見することがあります。さらに親しくなると、その人の過去の経験から別の一面が見えてくることもあります。
つまり、他者の「顔」は、自分がその人のことを理解していくにつれて、徐々にその姿を変えていき、私に対して無限の情報や意味を与え続けているのです。
イリヤ
「イリヤ」とは、フランス語で「〜がある」という意味です。レヴィナスの用語では、「主語を失ってもなお、そこに存在し続ける何か」という意味で使われます。
レヴィナスは「自分だけの世界」と、その外側に存在する「他者の世界」を分けて考えました。私は他者が何を考えているかを完全には理解できないため、相手のことをどんなに考えたとしても、「他者の世界」には私がわからない部分が必ず残ります。この未知の部分は、時に不気味で恐ろしいものになります。
さらに、たとえその人がいなくなったとしても、「他者の世界」の中には不気味な空間のようなものが存在し続けます。ちょうど、レヴィナスが大切な親族を失った後も世界が何事もなく動き続けていたように。
レヴィナスは、このような主語の無い、何とも言えない不気味な何かを「イリヤ」と名付けました。そして、私たちがイリヤの恐怖を克服するにはどうすれば良いかを考察しました。
イリヤの恐怖を克服するために
では、どうすれば、このイリヤの恐怖を乗り越えられるのでしょうか。レヴィナスは、「他者との対話を続けること」が重要だと考えます。
レヴィナスによれば、他者の「顔」は、常に私に対して何かを語っています。たとえその人が沈黙していても、「顔」は何かを語っているのです。
私たちはその語りかけを感じ取ると、自然と「応答」したくなります。たとえば、密室で二人きりになったときに無言のままではいられなかったり、SNSでコメントをもらった時にリアクションしたくなりますよね。
そして、レヴィナスはこの「応答」が「相手に対する責任」であると主張します。「責任」(responsibility)と「応答」(response)はどちらも同じ語源を持っており、「責任」とは本来、相手に対して自分なりの意思を持って「応答」することを言うのです。
レヴィナスはこの「応答」こそが倫理であり、道徳であり、私たちがイリヤの恐怖から抜け出す方法であると主張します。
他の思想との関係

現象学との関係
レヴィナスは、フッサールの現象学を深く学んでいました。
現象学は観察対象の存在を前提とせず、自分の中で起きている現象から出発して、対象の存在を考える学問です。
レヴィナスの思想では、自分が見えている他者の「顔」を出発点にして他者の存在を語っているところなどに、現象学の影響が見られます。
全体主義との関係
レヴィナスは、「顔」の理論を用いて全体主義を批判しました。
レヴィナスは、全体主義とは他者の無限性を否定する考え方であると主張しました。全体主義は、相手の考えていることや相手の存在を「自分だけの世界」が理解できる範疇までしか理解しようとせず、自分の中の論理によって他者を攻撃します。
レヴィナスは、他者の「顔」が無限に姿を変えていくことを強調し、自分の理解の範囲内だけで他者を扱う全体主義を否定したのでした。
実践!レヴィナスの思想を現代社会で生かす方法

対面で会ってみる
近年では、ビデオ通話やメールだけでビジネスが成立することがよくありますが、実際に対面で会ってみると、相手の印象が少し変わることが多いです。
なので、もしチャンスがあれば積極的に対面で会う機会を作ることをおすすめします。相手の新しい「顔」を見つけることによって、自分の頭の中にあるその人のイメージが更新されて、より深いコミュニケーションが可能になるでしょう。
レヴィナスのおすすめ入門書
レヴィナスの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)レヴィナスの面白エピソード

詩的な文章
レヴィナスの文章には詩的な印象を受ける表現が見られます。たとえば、「夜そのものが目を覚ましている」というような描写があります。
レヴィナスの本には、こういった素敵な表現がところどころに出てくるので、「この文は一体どういう意味なんだろう」と解釈を楽しみながら読むことができます。
まとめ
この記事では、「顔」「イリヤ」といったレヴィナスの思想をわかりやすく解説しました。レヴィナスは特に難解な哲学者として知られていますが、その思想は「自分とは何か」「他者とは何か」という、まさに哲学らしい内容だと思います。
ぜひ、たっぷり時間をかけて読み解いてみることをおすすめします。



