マルティン・ハイデガー(1889 - 1976)は、ドイツの実存主義の哲学者です。
このページでは、「現存在」「死への存在」「ダス・マン」といったハイデガーの思想を分かりやすく解説します。
また、ハイデガーの思想を、現代に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。
- ハイデガーの主な思想
- ハイデガーの思想を現代社会で生かす方法
- ハイデガーのおすすめ入門書
ハイデガーの生涯と時代背景
ハイデガーが活躍した時代は、産業革命によって機械化が進み、大衆文化によって人々が没個性化していく時代でした。
また、ドイツでは1929年の世界恐慌によってハイパーインフレが起こり、人々が持っていたお金がいきなり無価値になってしまいました。
こうした時代背景の中で、ハイデガーは人が存在する意味を問い、個人がどのように生きるべきかという哲学を主張しました。
ハイデガーの主な思想
ハイデガーの主な思想を解説します。
ハイデガーの著作には独自の用語が多く登場するため、難解と言われています。
存在と存在者
ハイデガーは「存在」と「存在者」という言葉を使い分けます。
「存在」とは何かが存在するという事実を指し、「存在者」は実際に存在している人や物を指します。
例えば、人間や動物、植物などはすべて「存在者」であり、それらが存在しているという事実が「存在」です。
現存在
「現存在」とは、自らの存在を問う存在者のことを言い、具体的には「人間」のことを指します。
ハイデガーは、人間は決断によって自分の存在の在り方(=生き方)を自由に選択できると考えました。
そしてこの性質は他の動物にはない、人間だけの特徴であると主張しました。
世界-内-存在
「世界-内-存在」とは、存在者が他の様々な存在者と関わりながら存在しているという考え方です。
例えば、生まれたばかりの赤ちゃんは、母親や哺乳瓶といった自分とは別の存在者と関わりながら生きていると言えます。
ハイデガーによれば、私たちは何の目的も持たない状態でこの世界に生まれ、その瞬間から他の存在者との関係の中で存在しています。
もし仮に、他者との関係を断ち切って山籠もりをしたとしても、そこには木々や野生動物といった存在者との関わりがあるでしょう。
死への存在
「死への存在」とは、人間の存在(=人生)は本質的には「死」に向かっているのだという考え方です。
ハイデガーは、私たちの人生には目的はなく、生まれた瞬間から一歩ずつ、死に向かって進んでいるにすぎないと考えました。
もし人生が100年間だったとして、例えば生まれたばかりの赤ちゃんが1年間生きることは、寿命があと99年になるということであり、1年分「死」に近づいたと考えることができます。
ダス・マン(Das Man)
「ダス・マン」とは、死と向き合うことなく没個性的に生きる人々のことを指します。
人間は本来「現存在」なので、自分の生き方を自由に選ぶことができるはずです。
しかし、ダス・マンは死を恐れるあまり、死から目を背け、没個性的に生きています。
例えば、企業の中で上司の命令にただ従っている人は、自分がどうしたいかではなく、「上司がどう思うか」という判断基準で仕事をしています。
ハイデガーは、技術革新や大衆文化によって多くの人が個性を失い、自分の本来の生き方とは異なる、他人に合わせた平均的な生き方をしてしまっていると主張しました。
存在忘却の時代
「存在忘却の時代」とは、人々がダス・マンとなり、固有の存在の仕方を見失う時代のことを言います。
ハイデガーによれば、存在忘却の時代では、あらゆる物や人が利用されるべき材料としてみなされてしまいます。
例えば、化粧品を製造する企業は自社の利益を上げる手段として、「綺麗になりたい」という人々に広告を配信し、化粧品の購入を促します。
この時、人々は1つの企業の利益を上げるための材料として利用されていると言えます。
他の思想との関係
フッサールとの関係
ハイデガーは、ドイツの哲学者エトムント・フッサールのもとで現象学を学びました。
「現象学」とは、人間の先入観を排除することにより、現象そのものを直接調べて考察する手法です。
実存主義者との関係
ハイデガーは個人が自分の本来の生き方を選ぶことを重視しました。
このように、「個人がどのように生きるべきか」に注目する哲学を「実存主義」と言います。
ハイデガーは実存主義者の中でも、セーレン・キルケゴールやフリードリヒ・ニーチェの影響を受けています。
ハイデガーの思想を現代に生かす方法
自分がやりたいことを考える
ハイデガーはダス・マンという概念を通じて、人々が没個性的になり、自分の存在の在り方を考えられていないと主張しました。
現代の日本でも「これからの時代、○○を身につけなければ生きていけない」という話を聞いて、焦ってしまうこともあるでしょう。
しかし、その「○○」は本当に自分がやりたいことなのかをよく考える必要があります。
なぜなら、それを身につけるために費やす時間は、あなたの人生そのものだからです。
ハイデガーのおすすめ入門書
ハイデガーの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
【おまけ】ハイデガーの面白エピソード
ハンナ・アレントとの関係
ハイデガーは、大学の教え子であったユダヤ人のハンナ・アレントと恋愛関係にありました。彼女が18歳のときで、ハイデガーは既に既婚者でした。
しかし、ハイデガーがナチ党に入党したことで彼らの関係は一時的に断絶します。その後、アレントはナチスから逃れるためにドイツを離れることを余儀なくされました。
第二次世界大戦後、ハイデガーとアレントは再び接触を持ち、その後も書簡のやり取りなどを通じて思想的な交流を続けていました。
アレントはハイデガーの反ユダヤ主義思想を強く批判しましたが、一方で彼の思想自体に対しては深い敬意を持ち続け、彼の哲学が自身の思想に大きな影響を与えたことを認めています。なかなか複雑な話ですね。しかし18歳。。。
まとめ
この記事では、「現存在」「死への存在」「ダス・マン」といったハイデガーの思想を分かりやすく解説しました。
ハイデガーの思想は、人間が自らの存在を問い、決断することによって本来の生き方をすることを重視しています。
現代に生きる私たちにとっても、非常に参考になる哲学者だと思います。