フリードリヒ・ニーチェ(1844 - 1900)は、19世紀ドイツの哲学者です。
このページでは、「永劫回帰」「ルサンチマン」「超人」といったニーチェの思想を分かりやすく解説します。
また、ニーチェの思想を現代社会に生きる私たちの人生に生かす方法を紹介します。
- ニーチェの主な思想
- ニーチェの思想を現代社会で生かす方法
- ニーチェのおすすめ入門書
ニーチェの生涯と時代背景
ニーチェは1844年にプロイセン王国(現ドイツ)の田舎で生まれました。
幼い頃から多方面に才能を発揮し、20代の学生の頃に大学教授に就任します。これは当時としても異例であり、ニーチェがいかに天才であったかがうかがえます。
その後、健康上の理由から大学を退職し、在野の思想家として執筆活動に励みますが、全く本が売れず、なかなか日の目を見ることはありませんでした。
晩年には精神を病んでしまい、その後ニーチェの著作が評価され始めますが、本人は回復することなく、55歳でこの世を去ります。
ニーチェの主な思想
ニーチェの主な思想を紹介します。
力への意志
「力への意志」とは、全ての生物が生き残るために力を求め、他の生物を支配しようとする本能的な意志を言います。
ここでいう「力」とは、体力、知力、権力といった分かりやすい力のほか、創造力、求心力、実行力など、自分が何かを成し遂げるために必要なあらゆる力を言います。
ニーチェは、生命の行動はすべて「力への意志」によって動かされていると主張しました。
永劫回帰
「永劫回帰」とは、個人の人生が永遠に繰り返されるという考え方です。
例えば、ある人が10歳の時につらい出来事を経験をしたとします。
永劫回帰の考え方によれば、この人は全く同じ人生を永遠に繰り返すことになります。
つまり、生まれ変わったら別の人生があるのではなく、10歳の時にはまたつらい経験をしてしまうのです。
ニーチェは、苦しい過去も楽しい過去もすべて肯定的に捉え、その過去を踏まえてこれから最善の行動をとるべきだと主張しました。
なぜなら、過去の出来事は、私たちがどのように評価するかにかかわらず永遠に同じことが繰り返されるため、幸せになるためにはその過去を肯定的に捉えるしかないからです。
また、私たちがこれから経験する未来も永遠に繰り返されることになるので、より良い選択を取っていくしかないからです。
ルサンチマン
「ルサンチマン」とは、自分の不満や欠点を直視することなく、他者や外部の状況を責める心情を指します。
例えば、自分が他者よりも劣っていると感じたとき、その状況を受け入れ、自己を改善しようと努力するのではなく、他人や社会を責め、恨む感情がルサンチマンです。
ニーチェの思想では、このルサンチマンが道徳と強く結びついています。
弱者はルサンチマンによって自分の弱さを正当化し、強者を貶めるための道徳を創り出します。
例えば、強者が自由に行動し、欲望を追求することを「利己的」と非難し、一方で、自己犠牲や謙虚さを美徳とします。これは、弱者が自分たちが強者になれない理由を外部に求め、それを正当化するための手段と言えます。
ニーチェはこのルサンチマンが、人間の自己成長や自由を妨げる大きな壁であると考えました。
超人
「超人」とは、ルサンチマンを克服した人のことを言います。
超人は、自分の価値を自分で創造し、自分の人生を自分で決定していきます。
ニーチェは、ルサンチマンに囚われている人間が超人へと進化することで、初めて真の自由を得ると主張しました。
他の思想との関係
ニーチェが哲学の道を選んだのは、アルトゥール・ショーペンハウアーの著書『意志と表象としての世界』を読んだことがきっかけだったと言われています。
ショーペンハウアーは、人間の行動の背後には、生存本能に基づく欲望が常に働いていると考え、その欲望を「盲目的な意志」と呼びました。
ショーペンハウアーのこの「盲目的な意志」は、ニーチェの「力への意志」の考え方に影響を与えています。
ニーチェは「ルサンチマン」や「超人」の概念を用いて、たとえ弱者であっても自分の人生を肯定的にとらえ、強く生きるべきだと主張しました。
この考え方は、実存主義という思想に影響を与えています。
例えば、フランスの哲学者ジャン=ポール・サルトルは、ニーチェの「超人」の思想を受け継ぎ、人間が自分自身の存在と意味を創造する自由と責任を持っていると主張しました。
ニーチェの思想を現代社会で生かす方法
ルサンチマンを自覚する
芸能人の不祥事や大富豪の脱税のニュースを見たとき、心の中で「そうだと思った」と考えてしまうことはないでしょうか。
私たちは無意識のうちに、自分よりも良い境遇にある人に嫉妬し、ルサンチマンの感情を抱いてしまう生き物です。
ニーチェは、弱者がルサンチマンを克服することで超人となり、そこで初めて人生が幸せになると主張しました。
つまり、幸せになるためには、自分が嫉妬していることを自覚し、強者になるための努力をしていかなければならないということです。
相手のルサンチマンを観察する
逆に自分が誰かに嫉妬されている時は、相手のルサンチマンを観察してみるのも良いでしょう。
嫉妬によって攻撃を受けたり、理不尽な目に遭った場合でも、相手の心理にはルサンチマンがあり、それが道徳と結びついてしまっています。
つまり、自分にとっては悪意ある攻撃でも、相手の中では攻撃することが正当化されてしまっていることもあるということです。
こんな時は正論をかざしても攻撃は止まらないので、少し距離をとって「こういう心理で攻撃しているんだな」と観察することで、心に余裕を持つことができるでしょう。
ニーチェのおすすめ入門書
ニーチェの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
【おまけ】ニーチェの面白エピソード
ニーチェは若い頃から音楽を深く愛しており、特にリヒャルト・ワーグナの音楽に魅了されていました。
ニーチェはワーグナーと親交を深め、しばしばワーグナーの家を訪れては彼の音楽について語り合っていました。
しかし、後年ニーチェはワーグナーの音楽が持つ神秘主義や道徳性に反発し、彼との友情を断ち切ってしまいました。
まとめ
この記事では、「永劫回帰」「ルサンチマン」「超人」といったニーチェの思想をわかりやすく解説しました。
ニーチェの思想の根底にあるのは強く生きる個人の姿です。
格差が拡大している現代の社会では、人と比べて劣等感を抱いてしまうことも多いですが、自分の弱さと向き合い強く生きていくために、ニーチェの思想が参考になるかもしれません。