エトムント・フッサール(1859 - 1938)は、ドイツの現象学の哲学者です。
このページでは、「エポケー」「現象学的還元」といったフッサールの思想をわかりやすく解説します。
また、フッサールの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- フッサールの主な思想
- フッサールの思想を現代社会で生かす方法
- フッサールのおすすめ入門書
フッサールの生涯と時代背景
フッサールは1859年にドイツのモラヴィアで生まれました。大学では数学を専攻していましたが、最終的には哲学者として、さまざまな学問の基礎を研究する道を選びました。
当時のドイツは産業革命の真っただ中にあり、科学技術が急速に進化した結果、人々の生活や価値観、世界観が大きく変わりつつある時代でした。
フッサールの主な思想
現象学
「現象学」とは、人間の先入観を排除することにより、人間の内面に起きる現象そのものを直接調べて考察するという思考法です。
フッサールはまず、人間が認識できる世界はすべて主観的な体験に基づいていると考えました。
例えば、ある人は赤いバラを見て「あ、バラだ」と認識します。
また、ある人は植物園に行った時のことを思い出し、「この前植物園で見たバラだ」と考えながらそのバラを認識するかもしれません。
また、ある人は、結婚式を思い出しながらそのバラを見るかもしれません。
このように、観察する対象が同じものであっても、それをどのように認識(=体験)するかは、観察する人によって異なります。
現象学では、対象(バラ)でも観察者でもなく、「個々人が何かを体験するという現象」に焦点を当てます。
ノエシス・ノエマ
「ノエシス」とは人間が対象を認識することをいい、「ノエマ」とは認識される対象をいいます。
例えば音楽を聴くとき、ノエシスは音楽を聴くという行為自体を、ノエマは聴かれた音そのものを指します。
エポケー
エポケーとは、「停止する」という意味のギリシャ語です。
上記のバラの例のように、私たちは常に何かしらの前提知識に基づいて物事を認識しています。
このような態度を、フッサールは「自然的態度」と呼びます。
エポケーとは、このような自然的態度による認識をいったん停止することを言います。
フッサールによれば、エポケーによって前提知識を排除すると、そこには対象(=ノエマ)の本質のみが残り、「現象学的還元」が可能となります。
現象学的還元
「現象学的還元」とは、前提知識による判断(例えば「目の前にバナナが存在している」という知識)を一切停止し、自分の内側に起きている現象を観察することを言います。
従来の哲学では、人間が観察する対象は完全に客観的な世界に存在し、私たちは対象そのものを直接感じることはできないとされていました。
例えば、ドイツの哲学者イマニュエル・カントは客観的な世界のことを「物自体」と呼びました。
カントによれば、私たち人間は物自体ではなく、自分の中にあるフィルターを通して対象を認識しています。
このカントの考え方では、「客観的な世界が確実に存在していること」が前提となっています。
しかし、よく考えてみると、そこにバナナが存在しているという事実はどのように証明できるのでしょうか。
極端に言えば、すべて幻であるという可能性はないでしょうか。
そこでフッサールは、「客観的な世界が存在しているかどうか」という判断をいったん停止することを提案します(=エポケー)。
そして、エポケーしたままの状態で、対象(=ノエマ)ではなく、観察している自分の内面に起きている現象のみを観察します。
この方法よって、私たちはあらゆる前提知識から脱して、対象が自分の中でどのように体験されるかということについて、純粋に考察することができます。
フッサールはこのことを「現象学的還元」と表現しました。
他の思想との関係
フッサールは、カントの思想を発展的に継承しています。
特に、カントの「経験によって得た知識を、理性によって整理・解釈する」という考え方は、フッサールの認識論の根幹になっています。
また、フッサールの思想は、その後の多くの哲学者に影響を与えました。
特に、ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーは、フッサールの現象学を基盤として独自の哲学を構築しました。
実践!フッサールの思想を現代社会で生かす方法
瞑想(メディテーション)
フッサールの現象学的還元を実践するためには、エポケーによってあらゆる前提知識を停止する必要があります。
しかし、現代に生きる私たちの身の回りには様々な情報が溢れており、それらの情報を活用して生きることが当たり前になっています。
そこで、瞑想によって雑念を取り払い、自分の内面でどのような現象が起きているのかを意識してみてはいかがでしょうか。
自分の心の状態を客観的に自覚することによって、自分が本当にやりたい事や大切にしているものが何なのかを考えられるようになるでしょう。
(おまけ)フッサールの面白エピソード
哲学の地位向上
フッサールが活躍していた時代は、自然科学の理論が飛躍的な発展を遂げていました。
逆に、答えのない問いを考える「哲学」の地位は相対的に低くなっていました。
かつての哲学は、数学や物理学などの自然科学を含む、この世のすべてを知るための学問でした。
例えば、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、現代で言う論理学、倫理学、自然科学、政治学などの幅広い学問に影響を及ぼしたことから「万学の祖」と呼ばれています。
しかし、中世・近代と時代が進むにつれて、一人ひとりの哲学者の研究領域はどんどん狭くなっていきました。
フッサールは、このような哲学の地位を挽回すべく、あらゆる学問を基礎づけるような理論を打ち立てることを試みました。
そうしてできた理論が現象学です。
残念ながら日本の大学では、哲学は「文系」の学問として認識されており、数学などの自然科学の要素は含まれないことが多いです。
この現状を見ても、フッサールがいかに壮大なスケールで物事を考えていたかが分かりますね。
フッサールのおすすめ入門書
フッサールの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
まとめ
この記事では、「エポケー」「現象学的還元」といったフッサールの思想をわかりやすく解説しました。
フッサールの現象学は非常に難解な理論として知られていますが、ポイントは自分の内面に目を向け、起きている現象と向き合うということです。
この観点は、現代社会で生きる私たちにとっても非常に参考になるのではと思います。