ジル・ドゥルーズ(1925 - 1995)は、フランスのポストモダニズムの哲学者です。
この記事では、「差異」「リゾーム」「欲望する機械」といったドゥルーズの難解な思想を分かりやすく解説します。
また、ドゥルーズの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- ドゥルーズの思想
- ドゥルーズの思想を現代社会で生かす方法
- ドゥルーズのおすすめ入門書
ドゥルーズの生涯と時代背景
ドゥルーズは1925年にフランスのパリで生まれ、ベルクソンやカント、ヒュームなど近代の哲学を学びました。
1939年には第二次世界大戦が勃発します。当時は隣国ドイツでナチスによる全体主義政権が発足していました。
全体主義では、全ての人が同じ価値観を信じており、異なる価値観は排除されるか、もしくは同一化されます。そして最終的には、社会全体としても、個人の内面としても、ただ一つの価値観に収束していくことになります。
ドゥルーズは、このような全体主義を克服するために、同一性の力に負けないような差異を重視する哲学を生み出しました。
ドゥルーズの主な思想
ドゥルーズの主な思想を解説します。
ドゥルーズの思想を一言で表すなら、「『これが正解だ』という論理を信じないように生きる」ということです。この考え方は、ポストモダン思想の中核となっていきます。
差異
「差異」とは「異なっている状態」のことです。差異の反対は「同一性」です。ドゥルーズは著書『差異と反復』の中で、「存在とは差異である」と主張しました。
ドゥルーズによれば、世界も個人も絶えず変化を続けており、少しずつ差異が生まれ続けています。そしてその差異こそが「存在」なのだとドゥルーズは主張します。
例えば、昨日の私と今日の私では見た目も中身も少しだけ異なっています。つまり、私という人間は絶えず変化を続けています。そして、その変化そのもの(=差異)が「私」という存在なのだということです。
私たちは、何かが「存在する」と聞いた時に、ある瞬間を写真のように切り取った姿を思い浮かべます。しかし、ドゥルーズはそのようなイメージを否定し、常に同一性から離れていくような「差異」こそが存在の根源なのだと主張しました。
リゾーム
「リゾーム」とは、フランス語で「根っこ」という意味です。
ドゥルーズは、「こうあるべきだ」という「理想の姿」を木の幹にたとえ、「現実の姿」を木の枝にたとえました。
そして、ドゥルーズが重視する「差異」は、幹でも枝でもなく「リゾーム(=根っこ)」にたとえられます。
木の幹と枝の関係は、あくまでも幹がベースにあり、幹に従属する形で枝が存在します。これと同様に、西洋の近代哲学は「現実(=枝)」を「理想(=幹)」との関係でとらえてきました。
一方、根っこは幹や枝とは関係なく、無秩序に多方向に伸びていきます。ドゥルーズは差異が持つ「無秩序さ」や「多様さ」を重視しました。
欲望する機械
「欲望する機械」とは、多様な差異を生みながら常に変化し続ける個人や社会システムのことです。
ドゥルーズはまず、人間の身体や物質、社会システムなど、世の中に存在する物は全て「機械」にすぎないと説明します。そして、それらの機械の間に「欲望」が流れていくような世界観を提示しました。
例えば、私がチョコレートを食べ、その後に友達に電話したとします。
ドゥルーズによれば、この時、「何か食べたい」という欲望が「私」という機械を動かし、目の前の「チョコレート」という機械に接続させます。
そして、欲望が満たされた私はチョコレートと切断し、今度は「人と触れ合いたい」という欲望に動かされ、「スマートフォン」という機械に接続します。
このように、ドゥルーズの世界観では、全ての存在(=機械)が多様な欲望に動かされ、接続と切断を繰り返しているのです。
他の思想との関係
ドゥルーズは、近代西洋の多くの哲学者の思想をベースに、独自の理論を構築しました。中でも、イギリスのデイヴィッド・ヒュームやフランスのアンリ・ベルクソンから大きな影響を受けています。
ヒュームは、人間は一つ一つの経験が束になったような存在であると定義し、その束に次々と新しい経験が加わることによって、変化していくものであると主張しました。
この考え方は、同一性よりも「差異」を重視するドゥルーズの思想に影響を与えています。
また、ベルクソンは、過去・現在・未来が混ざり合った主観的な時間を指す「持続」という概念を提唱しました。持続の概念は、それぞれの人が感じている持続が、全体を構成していると考えます。
この考え方は、全体ではなく個々の存在の無秩序さを重視するドゥルーズの思想に影響を与えています。
実践!ドゥルーズの思想を現代社会で生かす方法
ドゥルーズの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
「無意味な時間」を肯定する
私たちは、平日の夜や休日を無意味に過ごしてしまったと後悔する時があります。
この後悔の裏には、人生の中で何か大事なことをしている時間が「メイン」で、そうではない時間が「サブ」であるという考え方があります。
しかし、ドゥルーズによれば絶対的に正しいものなどありません。つまり、時間の使い方にも正解など存在しないのです。
ただボーっとしている時間にも、脳内では色々な処理をしていますし、寝転がって過ごす時間には身体を休めているという側面もあります。
たとえある観点では無意味な時間であっても、その時間を肯定することで、人生が少し豊かになるでしょう。
ドゥルーズのおすすめ入門書
ドゥルーズの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)ドゥルーズの面白エピソード
ポストモダンの流行
ドゥルーズのポストモダン思想は、同じくフランスの哲学者であるジャック・デリダとともに、1980年代の日本で流行しました。
ポストモダン思想の「正解を求めない」という価値観は、哲学の領域を超えて絵画や建築など、幅広い分野に影響を与えました。それにより、合理性や機能性を過度に重視する近代の価値観を問い直すきっかけになったと言えます。
まとめ
この記事では、「差異」「リゾーム」「欲望する機械」といったドゥルーズの思想を解説しました。
ドゥルーズの思想を一言で表現するなら、「『これが正解だ』という論理を信じないように生きる」ということです。
何かと「正解」が重視している現代社会を考え直すきっかけを与えてくれる思想ですね。