バールーフ・デ・スピノザ(1632 - 1677)は、近代ヨーロッパの合理主義の哲学者です。このページでは、スピノザの思想を分かりやすく解説します。また、スピノザの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
- スピノザの主な思想
- スピノザの思想を現代社会で生かす方法
- スピノザのおすすめ入門書
スピノザの生涯と時代背景
スピノザは、オランダのアムステルダムに生まれました。彼の家族はポルトガルからのユダヤ人難民でした。
スピノザが活動した17世紀のヨーロッパは、宗教改革が起こり、それまでの教会主導の思想から、科学的な視点や個人の自由といった観念が広がり始めた時代でした。
スピノザの主な思想
スピノザの主な思想を解説します。
汎神論
汎神論とは、すべての存在は神の一部であるという考え方です。
これは、神と世界は別々の存在ではなく、神が世界を内包するという視点を示しています。
つまり、スピノザにとって神は全存在の原理であり、その一部として私たち人間も存在するのです。
ただし、スピノザが言う「神」とは、宗教的な「神様」とは少し異なり、自然の摂理や人間の行動原理の全てを含む概念です。
例えば、雨が降ることも、私たちのお腹が減るという現象も、神の一部であるというイメージです。
こう考えると、スピノザの「神」の概念は、実は日本の「八百万の神」の発想に近いものがありますね。
決定論
決定論とは、全ての事象は原因と結果の連鎖によって必然的に生じるという考え方です。
つまり、ある人が自分の意志で行動しているつもりでも、その人がその行動をすることは、あらかじめ決まっていたことだということです。
例えば、私が朝、目が覚めて水を飲むという行動は、一見すると私の自由な意志に基づくものと思われます。
しかし、その行動は、一晩寝る→体が水分を必要とする→喉が渇く→水を飲みたくなる....といったように、すべてが原因と結果の連鎖によってつながっており、この連鎖はあらかじめ神によって決定されているとスピノザは主張します。
この考え方は、人間の自由意志の存在を否定しているようにも見えます。
しかし、スピノザ自身は決定論を基に人間の「自由」を説明します。
スピノザにとって、「自由」とは、自分の行動の原因を理解し、それに従うこと、すなわち「必然性を理解すること」を言います。
つまり、自分の行動が何らかの原因から生じることを理解し、その必然性を受け入れることが、真の自由を得る道だと彼は説きました。
国家論
スピノザは未完の著書『国家論』の中で、理想的な国家の姿について検討しています。
スピノザはまず、人間には元々ありとあらゆることをする権利(=自然権)があったと考えます。
しかし、全ての人間が自分の権利を行使し、好き勝手に行動してしまうと、結果として他者の権利を侵害してしまうことになります。
そうすると、本来権利を「使う側」の人が、誰かの権利を「使われる側」になってしまい、自然権が無意味なものになってしまいます。
そこで人々の権利を守るために、国家を作る必要性が出てきます。
スピノザにとっての理想の国家は、本来個人に与えられている自然権を実現するためのものでした。
スピノザが亡くなってしまったため、著書『国家』は未完に終わってしまいましたが、その他の文献などから、スピノザは国民が自ら国を統治する「民主国家」こそが、理想の国家の姿であると考えていたと言われています。
他の思想との関係
過去の思想からの影響
スピノザの思想は、デカルトの思想の影響を受けています。
デカルトは、人間に備わっている理性を用いて、論理を使って真実を導く「合理主義」という考え方を提唱しました。
スピノザの思想も、この合理主義思想を継承しています。
デカルトの思想については、下記の記事で詳しく解説しています。
興味があればぜひご一読ください。
また、スピノザの国家論はホッブスの社会契約論と似ています。
スピノザもホッブズも、国家が無ければ争いが生じてしまうという点では共通しています。
ただし、ホッブズが国家の権力を絶対視したのに対し、スピノザはなるべく人々の権利を損なわない形の国家を理想とした点が異なっています。
ホッブズの思想については、下記の記事で解説しています。
興味がある方は、ぜひご一読ください。
後の思想への影響
スピノザの哲学はその後の思想家たちに多大な影響を与えました。
特に、19世紀のドイツ観念論の哲学者ヘーゲルは、絶対精神という概念を提唱しています。
絶対精神とは、すべての存在や現象、歴史の動きを一つに統合した最終的な存在を指します。
ヘーゲルは、「人間の文化や歴史はすべてこの絶対精神の発展の一部であり、その究極の目的は自己認識の完成である」と主張しました。
この絶対精神の考え方は、スピノザの決定論の影響を受けていると言われています。
ヘーゲルの思想については、下記の記事で解説しています。
興味がある方は、ぜひご一読ください。
実践!スピノザの思想を現代社会で生かす方法
スピノザの思想を現代社会で生かす方法を紹介します。
偶然起きたことの原因を考える
スピノザの思想の根底には、「すべての事象には原因があり、神の意志から外れた偶然を認めない」という価値観があります。
人生には、偶然起きたとしか考えられないことがよく起こります。
しかし、その経験を安易に偶然として片づけず、その原因を検証することによって、成功体験を再現できたり、失敗を次に生かすことが可能です。
例えば、「憧れの人に出会ったが、「偶然」その時はノーメイクだったため、残念な思いをした」ということがあったとします。
確かに、偶然といえば偶然起きたことですが、因果関係をたどると「メイクをせずに家を出た」という事実が浮かび上がり、「今後は家を出る時はメイクをする」というマイルールを設定することで、同じ「偶然」を回避することができるでしょう。
スピノザのおすすめ入門書
スピノザの思想を学ぶためのおすすめ入門書を紹介します。
(おまけ)スピノザの面白エピソード
スピノザは生計を立てるためにレンズ磨きの仕事をしていました。
当時、レンズは物理学の研究対象として、哲学者や科学者の興味の対象であったため、スピノザも単なる労働者ではなかったと思われます。
しかし、一労働者でもあったスピノザが、死後300年以上たってからも名を残していると思うと、胸が熱くなります。
まとめ
このページでは、スピノザの思想について解説しました。
スピノザの思想は、自分の行動の原因を理解し、それを受け入れることで真の自由を得るという洞察を与えてくれます。
この視点は、現代社会での日常生活においても有用だと思います。